鬼平犯科帳『盗賊婚礼』のラストシーン。
妻は「事は片付き」「丸く収まって」「大変なお手柄」だったと締めくくる。
対して、長谷川平蔵は「手柄か、、、」と、事情を知らぬ妻には抗せず、薄く苦笑いする。
そして、この件で、恩を受けた主人への忠義のために死んでいった一人の哀れな盗賊のことに想いを馳せ、憂いに満ちた表情を浮かべ、声を上げこう独白する。
「事は収まっても、人の心は収まらぬ。なぜ、あの雲のように、風のように、あるがままに生きていくことができんのか、、、悲しいものよ、、、」
「悲しい」のは、悲しみを雲のように流せない人間の性(さが)が悲しいというのと、先の盗賊のことがしみじみと悲しいという両方ににかかっている。
妻は雲の流れるようにそそくさと席を立って行ってしまい、平蔵だけがその想いの中にひとり浸っている。
毎度、感涙させられるエンディングである。
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