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ブライアン・イーノとは誰なのか?−『イーノ入門−音楽を変革した非音楽家の頭脳』

更新日:2022年7月13日

ele-king編集部(編)『イーノ入門−音楽を変革した非音楽家の頭脳』(Pヴァイン、2022年5月)


 ブライアン・イーノ。彼の名前を知らない人でも、彼が作った音をどこかで一度は耳にしているはずです。Windowsの起動音を作ったのがイーノです。1948年イングランド、サフォーク州の労働者階級の家に生まれたイーノは美術を志していましたが、後に興味の対象を視覚だけでなく聴覚や嗅覚(彼は香水師でもあります)の領域へと広げていきました。ロキシー・ミュージックのメンバー、作曲家、アンビエント音楽の提唱者、音楽プロデューサー、美術家、アプリなどの開発者、社会活動家等、彼はいくつもの顔を持った現代の賢人のひとりともいえるでしょう。彼の長年にわたる様々な分野での活動と作品を少しでも詳しく知りたくなった時、はっきりいって、どこから手をつけたらよいのか途方に暮れてしまうほどです。

 『イーノ入門−音楽を変革した非音楽家の頭脳』はイーノの経歴、思想、活動、作品をまとめた一冊です。副題「非音楽家」はイーノが自身の立場を表すために用いた彼自身の造語です。音楽の専門教育を受けたわけでもなく、特定の楽器がうまく弾けるわけでもなく、それでも彼は音に音楽に関わり続けています。彼が音楽を作る方法や道具は必ずしも楽器や楽譜に限らず、スタジオ、機材、最近では音楽制作用のソフトウェアといったものを指します。それゆえの自称「非音楽家」なのですが、彼はこれまでに膨大な数の作品を世に出してきました。本書には彼自身の作品、他のミュージシャンとコラボレーションした作品など、60枚のアルバム解説が一挙に掲載されています。その一つ一つを読みながら、彼が作ってきたアルバムの数を改めて聴き直してみると、「非音楽家」はあくまでもイーノによる自嘲気味な自己紹介に過ぎず、彼が半世紀近くにわたって音楽に大きな影響を与えてきたことがわかります。アンビエント音楽という一ジャンルの代名詞となったアルバム『Ambient 1: Music for Airports』(1978)がその最もよく知られた例かもしれません。

 本書にはイーノに関する興味深い論考も掲載されていて、彼の活動が多角的に論じられています。どれも読み応えがありますが、中でも小林拓音「テクノロジーがジェネレイティヴを実現する−ピーター・チルヴァースとの共同作業」、三田格「日常の音楽、反意識の音楽」、毛利嘉孝「政治的アクティヴィストとしてのイーノ」は、これまであまり頻繁に考察されてこなかった視点からのアプローチで書かれていると思いました。

 『イーノ入門』を読んでイーノについての基本的なあれこれを知ったら応用に進みたくなります。ちょうど今、京都でイーノのインスタレーション展「Ambient Kyoto」(2022年6月3日−8月21日)が行われています。私はまだ観に行っていませんが、「イーノ応用」として近々京都に行く予定です。


Brian Eno Ambient Kyoto


Roxy Music時代のイーノ

Roxy Music, Re-Make/Re-Model


受付 加藤マイ


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