マッサージ①

元はと言えば、重い物を持った腰痛や交通事故の鞭打ちでマッサージに通い始めた。

いろいろな整形外科、接骨、針灸を渡り歩いたのだが、

たまたま近所にあった中国整体にお世話になった。

日本語がたどたどしい中国人男性医師のT先生である。

北京では手術もされていたのだが日本では医療行為ができないのでマッサージをしていた。

お母様もやはり医師で北京で薬の研究をしておられるという。

マッサージを受けながら治療についてあれこれ教えてもらうのを楽しみにしていた。


おかげさまで私の体もすっかり良くなり、通院頻度も減って10年近く経ったあるとき、

壁に掛けてある中国語の免許書を見たら日本名があることに気づいた。

わけを聞いたら何と彼のお母様は残留孤児であると聞いて腰を抜かした。

それで日本に来たのだろう。

その歴史に私は圧倒されたが先生はいつものように淡々としていた。


その後、私はその街を離れ、体も良くなったので年に一度くらいしか行くことがなくなっていた。

そうこうするうちに、東京には中国整体の店が溢れるようになった。

あるとき、T先生のいた店に行ったら、先生はもういなかった。

中国に帰り、現地の方と結婚したとその店にいるT先生の友人のW先生から聞いた。

彼の素晴らしいマッサージを受けられなくなったことを残念に思いつつも、

あちらで幸せにされているのだろうし、また日本に来たら会いたいなと思っていた。


また数年して、その店に行き、T先生は元気ですかとW先生に尋ねたら、

急に店の外に連れ出されて話しをされた。

T先生はつい数ヶ月前に亡くなり、W先生は昨日その話を中国の人と電話でしていたばかりだという。

原因不明の病気で治療虚しく、奥様とお母様が残されたという。

まだ若いのにとても信じられなかった。

いきなり私が消息を尋ねに現れたのでW先生も驚愕したのである。

これが虫の知らせ、シンクロニシティ、縁ということか。


原発事故で多くの来日中国人が母国に戻るということもあった。

その後、今度は銀座に日本に大挙して買い物客が押し寄せた。

それもコロナで消えてしまい、気づくといつしか街の中国整体はあまり見かけなくなった。

でも、日本にはマッサージの店は増えてごくポピュラーなものになった。


T先生とは何度か昼食を共にした。

もう会うことができなくなってしまったが、

T先生の年来の患者であった私はマッサージこそしないが、

先生の治療の理論と精神をちょっとは受け継いでカウンセリングをしている。



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