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マリー・アントワネットが言ったこと

  • 7月14日
  • 読了時間: 2分

 7月14日はフランスの革命記念日です。1789年のこの日、パリ市民がバスチーユ牢獄を襲撃したことが、革命の起点になったことを記念しています。同時期に興った産業革命、そしてボストン茶会事件を発端とするアメリカ独立とともに、18世紀後半は現代社会のアウトラインが形成された時代でした。

 ここで取り上げたいのは、この画期的な出来事の中ではほんのトリビアルな一齣です。マリー・アントワネットがパリの騒乱を聞くと「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言った言葉が伝わっています。そしてこれが事実ではなかったということです。

 このほかにも事実とはとても思えない逸話が、特にヒーローには残っています。たとえば、デイビー・クロケットが三歳でクマを退治したとか、源義経が壇ノ浦で八艘跳びを披露したとか。

 私たちは物語を、特に面白い物語を求めています。いっぽう私たちの記憶は脆いのです。私たちは、出来事の一部始終をつぶさに目撃し、忠実に記憶しているわけではありません。出来事の進行のなかでところどころ欠落していたり、あやふやな箇所を適宜補っています。そしてその補完は面白い物語の作成を目指しています。

 マリー・アントワネットは、ウィーンで生まれました。フランスに来たのは14歳でルイ16世と結婚したからです。政略結婚のお手本と言って良いでしょう。当時のフランスは絶対王政のもと奢侈な生活を送る王侯貴族と新大陸をも含めて拡大する戦乱のなかで疲弊する市民や農民との溝は深まるばかりでした。ルソーの『告白』のなかの一文「パンがなければブリオッシュを食べればいいじゃない」が、国民の困窮をないがしろにして豪奢な生活の中心人物とみなされた彼女の物語にぴったりと嵌まり込んだのでしょう。

 21世紀の今日、メディア、とりわけ電子メディアの発達は250年前とは比べるべくもありません。そのメディアを通してまことしやかなお話はたくさん生まれ、また流布しています。現代のテクノロジーは、生成AIによる「まことしやかな物語」を大量に生産可能にしました。私たちはこの「まことしやかさ」をどのように克服できるでしょうか。

 フランス革命の祝祭の日にアンシャン・レジームの悪例として取り沙汰される彼女の言葉を思います。

フランス下記名記念日のイラスト。フランス国旗とエッフェル塔、三色旗をイメージした花火と風船。
フランス下記名記念日のイラスト。フランス国旗とエッフェル塔、三色旗をイメージした花火と風船。

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