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森田正馬が勧めた読書法(2)

ここで、森田的読書は何をするために考案されたものかを確認しましょう。じつは、森田的読書の目的は森田自身がその著にはっきり書いているのです。前回私が引用した部分のすぐ後に、このようなくだりが続いています。


「およそ神経質患者は読書するにも常に理解、記憶が悪くなったとか、精神が散乱して注意を集中できないとか訴えるものであるが、それは実際にけっして精神衰弱のために起こるのではない。ただその価値を意識するのと完全欲のために、最も有効に読書したいという予期感情から起こることで、患者は読書するにも心は常に現在のことに集注(原文の表記)しないで自分の気分を測量したり、その先々のことを考えたりするために気が焦っているのである。(改行)私の読書法は、この価値意識と完全欲との予期感情を忘却することを目的とするものである。」


「この価値意識と完全欲」から生じる気持ちは、本を読む場合は「最も有効に読書したい」という思いであり、その思いが強いだけに「理解が悪い」「記憶が悪い」「集中できない」というネガティブな訴えが出てくると語られています。


では、どうすればそのようなネガティブな思いにとらわれずにすむでしょうか?森田は、最も有効に読書したいという焦る気持ちを忘れて、現在に目を向けることだと言っています。具体的にそれは読む作業に集中することを意味しています。


言い換えれば、「目的本位」という考え方が大切だということです。目的本位とは森田療法でよく聞く言葉で、気分本位の対義語です。自分の気分に左右されずに、生活に必要な一つ一つの行動を実践していくことです。思うように読めないと悲観しながらも、ある程度読めたのであればよしとする態度です。症状がありながらも、なんとか読む目的は果たせたという事実のほうに着目するわけです。


「目的」という言葉から、何か巨大な目標を連想する人もいるかもしれませんが、あくまで生活上に必要なささやかな行動のことを指しています。前回の記事の「三行でもよし五行でもよし」の話を思い出してみてください。


不安や恐怖などの気分はそのまま浮かべておいて、現在している目の前の行動に集中するという考え方。これは、森田療法の本質的な部分の一つと考えています。この部分は、たとえ時代が変わっても、不安障害を持つ人への心理援助にさまざまな形で活用していける含蓄のある知恵だと感じています。


引用文献

森田正馬 新版 神経質の本態と療法 白揚社

                                             ムクドリ
                                             ムクドリ

                                  


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