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研究と臨床のバランス問題

「研究」に対して、カウンセラーがクライエントの話を聞き、援助的な対応をすることは「臨床実践」と呼ばれることがあります。一人の臨床心理士のなかでも、研究的な態度と臨床実践に臨む態度には、大きな違いがあります。いくつか挙げてみたいと思います。


研究では、たとえば文章にまとめる際に何度も読み返し、推敲を重ねることが大切になります。新鮮な気持ちで再読するために、ある程度の時間を置いてから目を通すことも推奨されています。一般的に、研究成果を完成させるためには、かなりの時間が必要になります。


ところが心理面接では、1回45分などと面接時間が決められており、その時間の枠の中でクライエントの語りに基本的にはアドリブで対応していきます。


事前に何かを調べておくなど、準備ができないわけではありませんが、台本通りの対応は機械的で、生き生きとした相互的なやりとりにはならないのです。とくに初回面接では、どんなお話が出てくるか予想ができません。また、うっかり望ましくないことを言ってしまったとしても、発言自体を消しゴムで抹消できません。


また、研究では学術的な専門用語を使い、表現の正確性や論理性がきわめて重視されます。冷静な頭脳が必要です。ところが臨床実践では、必ずしもそうではありません。クライエントに伝わるように日常的なわかりやすい言葉を使う必要がありますし、具体的な言葉、感情を表す言葉、含みのある言葉などがたくさん登場します。


臨床場面では話の流れも論理的展開というよりは、行きつ戻りつ、自由気ままという感じで進んでいくことも多いのです。クライエントが泣くこともありますし、カウンセラーとともに笑うこともあります。いつもではありませんが、感情的にダイナミックで熱い展開になることもあります。


教科書的な本では、臨床心理士は「研究」と「臨床実践」の両方を行っていくことが必要と言われています。私もそれは大切だと考える立場です。しかし、現状としては「研究と臨床実践の乖離」などと言われているように、バランスよく統合することは必ずしも容易ではありません。


研究だけをしていても臨床はうまくなりませんし、臨床だけをしていても研究ができるようにはなりません。両立している同業者を尊敬しながら、私も無理せず頑張ろうと思います。


                                カンムリカイツブリ

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