(Mike Nogami, Study of Americana: Washington D. C. Region)
私たちはどんな時に写真を撮りたくなるでしょうか?珍しいものを見た時、愛猫のかわいらしい姿をできるだけ多く記録しておきたい時、旅行先での思い出を記録したい時、決定的瞬間に立ち会った時、日常の風景をふと切り取ってみたくなった時など、身のまわりで起きた何かしらの出来事を残すために私たちは写真を撮ります。スマートフォンのカメラが当たり前となった今、写真を撮る行為は歩いたり、食事をしたりするのと同じくらい日常的な動作の一部となりました。こうして撮られた日々の写真は記録物としての性格が強く、過去を振り返る際に欠かせない手段のひとつでもあります。
しかし、写真が志向するのは過去だけではありません。写真家の野上眞宏は「写真を見る驚きと楽しさは、こうして時間や空間を超え、写真に焼き付けられた像を通してその作家の目になれること」(「未来から今を写す」『1978 アメリカーナの探求』より引用)と述べ、未来へと働きかける写真の可能性を説きます。写真は、それが撮影された過去の視点から、それを見ている私たちに呼びかけているのです。
『1978 アメリカーナの探求』は、1974年に日本からロサンゼルスに移住して4年目を迎え、ワシントンDC市内に引っ越した野上が1978年に撮影した写真で構成されています。主な撮影地はワシントンDC、メリーランド州ボルティモアからヴァージニア州リッチモンド周辺。人がひしめくニューヨークのような大都市の風景とは違った、素朴で生活感のあるアメリカの郊外や小さな都市の風景が広がっています。ここに収められている数々の写真から、建築物、車、店のショーウィンドウに飾られた衣類、ネオンサインの色、ダイナーやガソリンスタンドの佇まいなど、1960年代アメリカのモダンなデザインが1978年にはまだ辛うじて残っていた様子が垣間見られます。
色彩やデザインをじっと見つめていると、この写真集を見る人それぞれの「アメリカーナ」のイメージが浮かびあがってくるはずです。
受付 加藤麻衣
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