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まずは実態の把握(2)

前回は、困っている問題に対して、まず実態把握が必要という内容でした。あらかじめその問題の性質や、原因の所在をよく観察して見極める必要があり、とくに「程度の把握」は重要と述べました。ものごとが軽いか重いかによって、対応方法が変化する場合が多く、改善までにかかる時間も重い場合のほうが長いという予後の見立てが自然な判断になります。


今回は、このことを実際のカウンセリング過程の視点から、もう少し深めて考えていきます。


非常におおまかに言えば、まず実態把握の段階があり、次に問題に対処する段階があると考えても差し支えないです。ただ実際のカウンセリングの過程は、必ずしもそんな単純な図式で進むわけではありません。


一つは、問題の実態把握は必要に応じて修正されていくものであること。もう一つは問題自体も時間とともに刻々と変化していく可能性があること。この2点をふまえれば、実態把握とは問題への対処と同時に続いていくものと思ったほうが正確かもしれません。


専門家といえども、途中で新たな重要な事実が見つかれば、問題の内容や、原因の所在、程度の把握にかんして見立てを捉え直す柔軟性を持っているものです。


もっとも、純粋に心理的な問題と思っていたけれども外因性精神障害が隠れていたというような、専門家による根本的判断ミスは防がなければなりません。その疑いがあるときは、せん妄や朦朧状態などが存在しないか聞き取っておく必要があります。このようなタイプの誤認ではなく、もう少し違うレベルでの見立ての修正はカウンセリングの過程でよく生じるものです。


実態把握は正確であるのに越したことはありませんが、絶対的あるいは学術的な厳密さにこだわると前に進めなくなるのも事実です。それこそが臨床現場というものです。たとえば、精密な知能検査といえども完璧に何もかもわかるわけではないと、私は検査に熟達した専門家から聞いたことがあります。臨床における実態把握とは、やはり仮説的なものなのです。カウンセリングに来談した人も、始めは「自分なりのだいたいの見方」を語ってもらえれば、それで十分です


カウンセリングでは相談者の話し方は千差万別ですが、一例としてこんな言い方もありえます。(創作した架空のセリフです)。学術的な討論をしているわけでないので、実際の場面では相談者もカウンセラーもふつうの言葉で話していく感じです。


「あのー、えーと、友達との人間関係がうまくいかないんですけど…具体的には会話が続かないんですよね。話題が出てこないし、自分からは話しかけないですよ…べつに鬱じゃないんですけど…性格なんですかね。もうちょっと話せたらいいと思うんですけど…。中学生のときぐらいからそうなんですけど…あれ違うかな?…でもずっと続いている感じだからやっぱ性格なんですかね?えっ?あ、家族とはわりと話してますかね…」



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