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『ねぎぼうずのあさたろう その1』―絵本の楽しみ−

更新日:2022年4月15日


飯野和好・作『ねぎぼうずのあさたろう その1』福音館書店、1999年

 今日ご紹介するのは絵本作家でイラストレーターの飯野和好による『ねぎぼうずのあさたろう その1』です。しまうまカウンセリングの「今月の本」は大人向けの本だけでなく、絵本が入ることもよくあります。

絵本はとても短い時間で読めてしまうにもかかわらず、普段の生活からは思いもよらないような奇想天外な世界に誘ってくれます。不思議なことに、たとえ動物たちが私たちと同じような服を着て、私たちと同じ言語で会話をしていようと、絵本を読んでいる最中はそれが当たり前だと思いこんでしまいます。ぐりとぐらが大きなカステラを焼いたら、私たちはなんの疑問も持たずに「あのカステラを自分も食べてみたいな」と思うはずです。

もちろん、物語ですから、私たちの現実の世界と噛み合わないことがたくさんあります。しかし、どの絵本も、現実との齟齬に対する瑣末な疑問を吹き飛ばすほどの説得力で、読者をぐいぐいと物語に引き込みます。この謎の説得力は物語と絵との相互作用がなせる技でしょうか。現実的な視点で考えるとあり得ない出来事の連続なのに、その物語の中ではこれらの出来事はなぜか筋が通っていて完結しているのです。これはSFやサイバネティクス小説などを読んでいる時に感じるおもしろさと同じ類のものかもしれません。

『ねぎぼうずのあさたろう その1』では、主人公のあさたろうがしばらく村を離れて東海道の旅に出ます。あさたろうはねぎぼうずですが、三度笠がよく似合っています。峠に出たあたりで、あさたろうは謎の浪人きゅうりのきゅうべえに遭遇します。きゅうべえはなかなか手強そうな敵です。危機に陥ったあさたろうは、お母さんが持たせてくれた唐辛子とわさびの粉を一か八かできゅうべえに振りかけました。すると、きゅうべえは萎びてしまいます。きゅうべえはきゅうりなので唐辛子やわさびに弱いのでしょう。塩もあったらさらに強力だったかもしれませんが、それはよけいなお世話ですね。そんなこんなで間一髪を切り抜けたあさたろうは、東海道をさらに西へと進みます。

よくよく考えると不思議なお話ですが、この絵本を読んでいると、きりっとした眉のあさたろうの正義感や勇気に感心させられます。また、あさたろうの心情を表すかのようなダイナミックな色使いの絵も物語とよく合っています。『ねぎぼうずのあさたろう』シリーズは時代劇絵本というユニークなジャンルの絵本です。

飯野和好・作『ねぎぼうずのあさたろう その1』


受付 加藤マイ

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