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本橋カウンセラー・インタヴュー

2022年12月に『対話のぬくもり—現代の孤独問題とカウンセリング』(翔雲社)を上梓した本橋英之カウンセラーにお話をうかがいました。執筆のきっかけ、読者に伝えたかったことなどを本橋カウンセラーに語っていただきました。


—執筆のきっかけや動機について教えてください。


もともと、しまうまカウンセリングのウェブサイトにブログを書いていましたが、それを本にまとめることは当初ほとんど考えていませんでした。書いた記事がたまっていくうちに、鈴木義也カウンセラーから本にしてはどうかとお勧めいただきました。自分としても、論文や本をゆっくり書いてみたいとかねがね思っていました。2019年の終わりに以前の職場を退職して、そして偶然なのですが、2020年1月頃からコロナ禍が始まりました。外出の機会がだいぶ減ってしまったなかで、本を読む機会、ものを書く機会、考える機会ができました。時間の余裕も出てきたので、ゆっくり腰を据えて今まで書いた記事をまとめてみようと思ったのが執筆の直接のきっかけでしょうか。あえて本にしようと思ったのは、ブログはわりとバラバラな感じでひとつずつ書いてきましたが、それらをひとつのテーマでしっかりとまとめていく作業をやってみたかったからですね。


—著書の副題でもある孤独問題をテーマに据えた理由をお聞かせください。


はじめからテーマを決めてブログの記事を書いていたわけではないのですが、色々な記事を見直して、そこに共通しているテーマがないかと考えていた時に「孤独」というテーマでまとめられるのではないかと思いました。コロナ禍で、「孤独」が私も含め多くの人にとって身近なテーマになってきたわけです。そうして、テーマに合う記事を選んで、かなり加筆修正をしたうえでひとつの本にまとめていきました。


「あとがき」にも書きましたが、孤独をテーマにした背景はもうひとつあります。高校時代に出会った国語の先生との出会いを機に色々な難しい本を読み始めたのですが、そのあたりで、哲学者の小原信が書いた『孤独と連帯』(中公新書、1972年)を読みました。これはどんな本かというと、いくつかの文学作品をふまえて孤独についての哲学的な考えが書かれています。青年時代に読んだこの本の印象が自分の中にすごく残っていたんですよね。『対話のぬくもり』を執筆する時に、小原先生の本を直接参照したわけではありません。でも、深いところでこの本のイメージが残っているような気がします。私の本の構成にも小原先生の本からの何かしらの影響があるのではないかと感じています。その後も孤独関連の本をいくつか読んでいますが、小原先生の本がやはりとても印象に残っています。孤独の様々な側面を詳しく書いてあるところが私の本とも似ているかなという感じがありますね。私の本は臨床心理学、小原先生の本は哲学なので、内容やアプローチで違う点はもちろんありますが。

*小原信『孤独と連帯』について、本橋カウンセラーがブログで紹介しています。詳しくはこちらをご覧ください。

—本のタイトル『対話のぬくもり』は本橋先生がおひとりで考えたのでしょうか?

私が考えました。ただ、はじめの段階では違うタイトルだったんですよ。「生きた人間との対話」というタイトルでした。少し考え直して最終的に『対話のぬくもり』になりました。なぜ「会話」ではなくて「対話」なのかというと、「会話」だとカジュアルなニュアンスも含まれてしまいます。もうちょっとまじめな言葉のやりとりみたいなイメージで「対話」にしました。「ぬくもり」という言葉には、言語的、知的なレヴェルの会話だけではなくて、非言語的情緒的、身体感覚的なレヴェルのやりとりも含まれるので「ぬくもり」と付けました。

副題の「現代の孤独問題とカウンセリング」のなかで、「孤独」ではなくて「孤独問題」としたことにも理由があります。もちろん、この本では孤独のポジティヴな面とネガティヴな面どちらも公平に捉えて書いたつもりですが、やはり、どちらかというと孤独のネガティヴな面を乗り越えていく側面も強調した書き方だったので副題に「孤独問題とカウンセリング」と付けました。こんな理由から、あえて「問題」という言葉を入れました。

孤独な人は「対話」によるあたたかさをすごく求めているんですよね。そういう意味も「対話」と「ぬくもり」に含まれています。

最近の傾向として、孤独をすごくポジティヴに捉えたり、あるいはそうすることを推奨するような本もわりと多いのですが、私の本はそういうものとは違う立場です。私の本は、孤独をプラス・マイナス両面から冷静に見て、ある側面では孤独を克服する対象として書いているところがありますね。

—『対話のぬくもり』には教科書的な側面があり、心理学やカウンセリングを勉強している人、新人カウンセラーなどにとって勉強になる書籍だと思います。また、カウンセリングを受けたことがない人にもとても参考になる印象です。本橋先生はこの本を若い人に向けて執筆したのでしょうか?

それはありますね。中堅やヴェテランのカウンセラーを対象にしたのではなく、カウンセリングを学び始めた人や、もちろん一般の方もそうですし、そういう方々に向けて書いたのははっきりしています。年配の方に読んでいただいてもうれしいですが。


先ほどお話した、以前考えていたタイトル「生きた人間との対話」には「孤独な時代のカウンセリングガイド」という副題を付けていて、この本には「招待」や「ガイダンス」の視点で書かれている側面があります。ただ、「あとがき」にも書きましたが、臨床家をめざす人はこの本を教科書のように受け取るのではなくて、ひとりのカウンセラーがこのような感じでやっているのだなと捉えてほしいです。そのうえで、この本を鵜呑みにするのではなくて、読者それぞれの自分の現場ではどんなことができるのかな、どんなことを考えていったらよいのかなと思いを巡らせてほしいです。教育、医療、福祉、司法など色々な分野で働いている方々に、自分の立場ならどうするかを考える視点でこの本を読んでもらいたいです。


—カウンセリングを受けてみたいと思っている方や、現在、困りごとを抱えている方は本橋先生の本をどのように読むのがよいのでしょうか?


例えば、読み方として、急いで一気に読まない方がいいのかなと思います。頭が痛くなってしまうかもしれません...。精神医学の本にも言えることですが、こうした臨床心理学の本を前のめりに入り込んで読んじゃうのはあまりよくないかな。この手の本を読む時は少しずつ読んでいくのが大事だと思いますね。もしも、読んでいてつらくなってしまうような方がいたとしたら、そういう時はまだ読まない方がよい、まだ事実に直面しない方がよいということです。もうちょっと自分が落ち着いてから読んだ方がよいという場合もあると思うので、読者のみなさんにはこのような点に気を付けていただきたいです。


本文にも書いたのですが、今、一般の人々の間でカウンセリングに対するイメージについて、実際とは違うイメージが独り歩きしているところがあります。この本を読むことで、そのイメージのズレが現実のカウンセリングの姿に近付いてくれるようになったら、ありがたいなと思います。カウンセリングに関心のある方はぜひ一度カウンセリングを体験していただくと、実際のカウンセリングがなんとなくわかるはずなので、この本がカウンセリングを受けるきっかけになれば著者としてうれしいなと思います。


—最後に、これから取り組んでみたいテーマについてお聞かせください。


正直なところ、一冊書き上げた余韻にまだ浸っていて、気持ちが次の段階に進んでいないような感じですが、今まで入手できなかった孤独関連の資料などを現在、集めています。まったく新しい別のテーマに行くよりかは、この本のテーマをさらに深めたいと思っています。深めていく具体的な切り口はまだ出てきてないのですが、資料を見ながら色々考えていくうちに何か出てくるかもしれませんね。


(インタヴューと構成、受付・加藤麻衣)



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