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印象深かった孤独論

私がカウンセラーになる前の青年期に読んだ本で強く印象に残っているものがあります。中公新書の『孤独と連帯』です。


哲学者の小原信さんが、5冊の文学作品にあらわれた主人公の生き方を素材として、孤独と連帯というテーマを哲学的に思索したものです。大学の講義がもとになっているそうなので、哲学書としては読みやすいと思います。今でも古本屋や図書館で、手に取ることができるようです。興味のある方はぜひお読みください。


直接、引用したり参考にしたりはしなかったものの、その本の思考は深いところでは私の著書にも影響を与えているようです(著書の文献の欄には載せていませんが)。ページをめくってみると、懐かしい感じがこみあげてきます。


論じられている高度な哲学的思索を簡潔にまとめる力量は私にはありません。これから読む人の楽しみのためにも内容紹介は控えます。ただ、ここでは論じ方についてフォーカスしてみたいと思います。


『孤独と連帯』に取り上げられている文学作品とは、カミュの『異邦人』、カフカの『変身』、太宰治の『人間失格』、夏目漱石の『こころ』、プラトンの『ソクラテスの弁明』『クリトン』になります。重苦しい文学ではあるものの、どれもが人々に親しまれている作品ばかりです。


多くの人にとって、哲学的な本というと難解で取っつきにくいイメージがあると思います。この本の特徴は、身近な文学作品のなかにある具体的なエピソードをもとに、抽象的な議論を展開しているところだと思います。底流の部分では、このようなアプローチから私は大きな影響を受けているのかもしれません。


哲学と臨床心理学は、もちろん同じではありませんが、学問的な関連性は非常に高いと思っています。論を進めていくうえで「具体的なエピソードを踏まえる(架空のものか現実かの違いはありますが)」という点で、例証を大切にする『孤独と連帯』の著者の思考の進め方は臨床心理学的な研究とよく通じるものがあると思いました。


臨床心理学は対人援助を目的とした実践的な学問です。目の前のクライエントの物語を聞くことが必要不可欠なのです。人々が語る具体的事実から、すべてが始まります。



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