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自分に優しく(3)

前々回、前回と「自己批判」と「自己賛美」の問題点について考えてみました。今回は「自分に優しく」ということに関連して「自分に忠実に生きる」というテーマについて考えてみたいと思います。実はこれはカウンセリングではしばしば表面化するテーマなんです。


たとえば組織内の人間関係や友人・家族関係などであまりに周囲の言いなりになってきた人が、今まで自分をないがしろにしてきたことに気づく場合があります。そういう人が、これから他人に振り回されない生き方をしようと考える時に、「自分に忠実に生きよう」という選択をすることがあります。それは確かに自分を大切にする生き方だと思います。他人の気持ちが尊重されるのと同様に、自分の気持ちも尊重される必要があるわけです。


しかしながら「自分に忠実に生きる」ということを、いつも他人と違う行動をするとか、つねに他人と異なる意見を持つことと捉えているように見える人がいます。私から見るとそういう人は「とにかく他人と同一ではないカラーを出すことがありのままの自分の独自性を主張する」という信念があるように思えます。言い換えれば集団に埋没せずに(群れないで)一匹狼でマイペースに振舞うことが自分を生きることだという考えです。


果たしてそうでしょうか。私はちょっと違和感を覚えてしまいます。


本来の意味での「自分に忠実」というのは、自分の中にある感情や欲求から目を背けないで、それが他人のものと同じであろうが異なろうが関係なく、それらを認め、大切にするという意味です。自分の思っていることはいつも他人と異なるとは限りません。自分の感情や欲求は他人と違うかもしれませんし、同じかもしれません。ある流行りの映画を観て友達が感動している時に、自分にとってはあまり面白くなかったという場合もありますし、自分も同様に心を動かされてその気持ちを友達と共有したくなることもあります。それは場合によるわけです。


いつも他人と違う意見や行動をするというのは、一見自己を主張しているように見えますが、実は天邪鬼(あまのじゃく)なだけで、それもやはり他人の在り方に振り回されている生き方なのかもしれません。「自分に忠実に生きる」とは必ずしも変わり者になることではないと思います。みなさんはどう思われますか?



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